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東洋太平洋(OPBF)クルーザー級タイトルマッチ12回戦が2006年12月13日(水)、東京・後楽園ホールで行われ、高橋良輔が判定で勝ち、新チャンピオンに輝いた。OPBFクルーザー級7位の良輔は、王者ナーミン・サバノビッチ(オーストラリア)に挑戦。3回に右ストレートから返しの左フックでダウンを奪い、終盤の苦しい場面も耐えきった。判定は2−1。1996年の西島洋介山につぐ日本人として2人目のOPBFクルーザー級王者となった。後楽園ホールを埋めつくした観客は大興奮。選手入場からから表彰式まで、絶え間ない良輔コールの大声援がホールをゆさぶった。良輔はデビュー8年目で、ずっしりと重いチャンピオン・ベルトを腰に巻いたことになる。 |
| 良輔の目標はヘビー級の王者だ。防衛戦を闘うかもしれないが、日本人ヘビー級ボクサーとして初めてOPBFの頂点に立つことが、デビュー当初からの悲願である。試合後リング上のインタビューで「自分の目標はあくまでもヘビー級。男33歳、まだまだ負けてねぇぜ」と力強く2階級制覇を宣言した。 |
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良輔は、2005年3月にOPBFヘビー級のタイトルマッチに挑んだが、王者オケロ・ピーターに敗れた。オケロは、12月10日モスクワでの世界ボクシング評議会(WBC)のヘビー級タイトル挑戦のため、OPBFのタイトルを返上した。(結果は残念ながら負けだった。)金子ジムは空位のタイトルマッチをめざして動いたが、通常1位と2位が争う空位タイトルマッチに良輔は対象外。タイトル挑戦者をさがしていた1階級下のクルーザー級で闘うことになった。
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(クリスチャンである良輔は、試合前にアーサー・ホーランド牧師とともに祈る。「主よ、共にいて守ってください」) |
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クルーザーのタイトルをとらなければヘビーのタイトルは無理だとの烙印をおされかねず、良輔にとっては、大きなプレッシャーを感じながらの挑戦だった。幸い、体調は絶好調。前回10月3日のOPBFクルーザー級9位のビトリ・ナタワケ戦を2RKOで制した良輔は、次の日から、いつもと変わらぬ練習を続けることができた。1階級下であっても、チャンピオンの重みは違う。今回のクルーザー級タイトル獲得は、ヘビー級タイトル再挑戦への大きな足がかりとなるだろう。 |
| 金子ジム所属の高橋良輔は33歳。今回の試合計量時の体重は89キロ、身長183センチ。戦績は22戦17勝(9KO)4敗1分となった。 |
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| 一方のナーミン・サバノビッチは、旧ユーゴスラビア出身で、13年前から南オーストラリア州の州都アデレードに住む。42歳だが、20代といっても通じる引き締まった肉体と速くて重いパンチの持ち主だ。試合計量時の体重は88キロ、身長180センチ。試合前の戦績は10戦7勝(5KO)1敗2分。チャンピオンタイトル獲得は2005年10月、メルボルンで行われたジェームス・グリマ戦で1RKOの勝利。本年9月にアノント・ドンプラディスとの防衛戦を7RTKOで制し、良輔の挑戦は2度目の防衛戦であった。 |
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42歳でプロの戦績は10回にすぎないが、旧ユーゴスラビア時代はアマチュアボクシング選手で、356戦330勝の輝かしい戦績を持つ。そのうち120回あまりはロシアやキューバの選手との国際試合だった。オリンピックにも2度出場している。左ジャブからワンツーのコンビネーションを得意とする。1993年に内戦を逃れて「移民の都」アデレードに移住し、プロに転向した。しかし、次の年に交通事故に巻き込まれ、足を複雑骨折し2003年まで試合ができなかった。 |
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アボリジニ先住民の支援組織に勤務するサバノビッチ。奥さんと2人の娘は、ボクシングは止めて欲しいと言い、復帰後の試合はビデオでも見てくれないという。栄光のアマチュア時代はボスニア紛争に翻弄されて幕がおりた。30歳前に新天地で念願のプロに転向したが、思わぬ事故に巻き込まれて9年間を棒にふってしまった。「俺の人生にはやり残したことがある」という無念さが、サバノビッチの心に炎を絶やさない。 |
| ホイッスルが鳴り、「ラウンド・ワン」のアナウンス。ゴングが鳴った。両者、中央に飛び出しながらグローブを合わる仕草。サバノビッチが軽く左のジャブを何発かだし、良輔が同様に応じる。 |
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ビデオでサバノビッチの闘いぶりを見てはいたが、肉眼で見る左ジャブは、剣の打突のよう。ワンツーの早さと重さは超弩級だ。
良輔には一点の恐れも見えない。コンパクトでカミソリのように鋭いジャブ、ワンツーで応酬する。 |
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サバノビッチのジャブが良輔の顔面をとらえる。 |
良輔、ものともせず、カウンターフックをたたき込む。ボディーにも一発。
1Rの開始早々から超重量の肉弾戦。4本の腕が絶え間なく打ちあい、大きな体が軽快に動く。時に、砲丸投げを思わせるような大きなワンツー。左フックが空を舞う。速くて重い。まともに食らったら一発撃沈だ。
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1R後半、良輔が王者をコーナーに追いつめ、右のクロスがサバノビッチの顔面にヒット。
1Rはやや良輔優勢か。 |
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2Rも弩級肉弾戦の継続だった。お互い一歩も引かない。殴る、殴り返す。その繰り返し。 |
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| 良輔とサバノビッチは、タイプが似た選手だ。ボクシングの正文法にのったテクニックでルールを尊重して闘う。奇抜な技や奇癖は無い。マナーが良い。左ジャブ、ワンツー、左フックとどれも力強く多彩な攻撃力を持っている。お互い、要所でボディーをたたき込む。そして何より、両者ともカウンターがうまい。カウンターを得意とする良輔にとって、やりにくい相手だ。 |
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時に「ちょっと、放してよ」とでも言いたげな、こんなシーンもあったが、これは力余っての「もつれ」。12ラウンドを通して、お互いに、逃げとか、クリンチが一切ない。ひたすら攻撃あるのみ。
猛攻撃でロープ際に追いつめ、追いつめられることがあっても、いつの間にか位置が入れ代わっている。
観客にとって、これほど気持ちよく興奮できる試合はあまりない。
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3Rは、ジャブ、ワンツー、ボディー、フックの応酬で闘いを進めながらも、良輔のスピードと、相手の動きを的確に捉える目が勝った。
ラウンド終盤に、サバノビッチの猛烈なワンツーを良輔がカウンターの左フックで返し、サバノビッチの頬を的確にとらえた。
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サバノビッチたまらず尻餅をつく格好でダウン。 |
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| すぐに立ち上がり、5カウント後に試合は再開されたが、ほぼ同時にゴングが鳴った。「残り30秒あれば、あそこで・・・」と良輔は試合後に残念がった。 |
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金子健太郎・金子ジム会長を筆頭とするセコンド陣。「いいぞ良輔。落ち着いて行け、大振りすんな、相手のペースに乗るな、いいな」
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4R開始。サバノビッチ、ダウンの影響は全く感じられない。開始早々から、左のジャブとフックを連発。そしてワンツー。良輔を赤コーナーに追いつめる。 |
良輔、体を入れ替えて、ボディーに一発。右ストレート。たたみ込むようにワンツー。
再び超弩級肉弾戦だ。このラウンドもお互い一歩もゆずらない。
サバノビッチの体重をみごとに乗せたワンツーは、見るだけで体がビビる。アマチュア戦350回あまりの実績の持ち主は、ボクシングのお手本を見せつける。ものすごい速さと共に。
良輔もまったく負けていない。目にも止まらぬ速いパンチ、くるぞと思う前に来てしまうカウンターは、超ベテラン・サバノビッチにとっても驚きの新体験ではなかったか。 |
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| 5R、サバノビッチはアッパーも繰り出した。良輔はボディーをたたき込み、王者はいやな顔。が、次の瞬間、左右の5連発を繰り出す。お返しとばかりに、ボディーを突く。良輔、このラウンドは手数が減ったようにみえるるが、パンチのスピードはますます冴える。ラウンド終盤で偶然のバッティングで、良輔、左前頭部に傷を受けた。 |
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良輔「イテー!」 |
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ドクター「大丈夫」
良輔のセコンドが手にしているのはエンスウェル。腫れと出血を抑える作用がある。 |
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6R、良輔またもや災難。今度はローブロー。これは痛かった。 |
良輔「あーイター。ちょっとヒドイよ」
レフェリー「サバちゃん、気をつけて、次は減点よ」
サバノビッチ「誠に申し訳ございませんでした。今後十分気をつけます」
マナーがいいね!
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7R、超弩級の肉弾戦がますます加速。サバノビッチのスタミナとエネルギーは回を追うごとに強化されるようだ。
スピードに勝る良輔の左が王者のアゴをとらえた。王者はバランスをくずして右手をリングについたが・・・。 |
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レフェリーの判定はスリップ。
良輔のうまさを印象づけるシーンだった。 |
| 8R、お互いに一歩もゆずらない壮烈な闘いが繰り広げられた。手に汗を握る程度ではない。まさに息がつまる。ジャッジペーパーが手渡される。ジャッジの福地勇治氏は、どんな採点をしているのだろうと、気になる。 |
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9Rも、猛攻撃、猛反撃の壮絶な闘い。リング中央で、あるいはコーナーで、殴り合い、また殴り合う。
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今回はサバノビッチが偶然のバッティングで右目上をカットした。たいしたことはなかった。
ラウンド後半、良輔がちょっとスタミナ切れ。幾つか有効打を受けて、手数が減った。 |
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10R、サバノビッチのスタミナもスピードも重力も迫力も少しも衰えない。テレビゲームではないが、相手のパワーを奪い取って、回を追うごとに強くなるモンスターのようだ。42歳という年齢を考えると驚異的だ。
良輔、カミソリパンチで応戦するが、後退もめだつ。
金子ジムの金子賢司マネージャーの指示に力がはいる。 |
| 11R、良輔にとってはいちばん苦しいラウンドだった。初めての12ラウンド戦で、とうとう11Rまで来てしまった。今日に備えて身体を鍛えに鍛えたが、苦しさは予想を超えていた。なにしろ相手はモンスターだ。猛然たるペースはますます強くなるばかり。ワンツーを連発する。有効打が良輔の固いガードを打ち砕く。後半には足がふらつく場面もあったが、耐えた。耐えて反撃した。ゴング直前にスリップ。これは単なるスリップ。かつてライバルで現役のヘビー級ボクサー市川次郎がリング下で試合を見守る。心なしか心配げな表情。 |
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12R、最終ラウンドだ。グローブを合わせる二人。泣いても笑っても、殴っても殴られても、あと3分。 |
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良輔、猛然たる気合い。「絶対勝つ!」の執念が顔に表れている。 |
また互角の超弩級肉弾戦がはじまった。
良輔コールが会場を包む。 |
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良輔の担当トレーナー、金子ジムの飯田勇司さん(右)。今日一日の激烈な声援と心配で、だいぶ命を縮めたのではないだろうか。
左は金子ジムの中井良二トレーナー。 |
ラスト10秒の拍子木が鳴った。
会場を揺さぶる良輔コールは絶叫に変わった。
良輔の耳に届いたに違いない。
良輔、猛ラッシュ。
まずは強烈なボディー。 |
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そのまま左フックにをたたき込んだ。
サバノビッチ、たまらずよろける。 |
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試合終了のゴングが鳴った。両腕を高々とあげて、俺が勝ったと言わんばかりのサバノビッチ。 |
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健闘をたたえる両陣営のセコンド陣。 |
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| 良輔は試合後の記者会見で言った。「勝ちか、引き分けかのどちらかだと思っていた」。予想を超えた苦戦に、試合直後の表情は冴えなかった。 |
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| 判定が読み上げられた。ジャッジ福地勇治(日本)115対114で高橋、ジャッジ・ゲーリー・イングラム(オーストラリア)115対112でサバノビッチ、レフェリー・シルベストレ・アバインザ(フィリピン)115対112。東洋太平洋クルーザー級・・・新チャンピオン、高橋良輔!!! |
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歓喜の叫びが会場を揺すった。
何よりも先に飯田トレーナーと抱き合う良輔。 |
デビュー8年目にして、チャンピオン・ベルトを手にした良輔。それは悲願のヘビー級より1階級下のベルトだった。しかも容易にはとれなかった。
これまで、いろいろな挫折も経験してきた。
だからこそ、このベルトには価値がある。
しかも上がある。 |
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認定書を受け取る良輔。 |
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そして、チャンピオン・トロフィー。
良輔にとってサバノビッチは、大いなる師と仰げるボクサーではないだろうか。心に炎を絶やさず、練習に、鍛錬に専念すれば、42歳になっても33歳の自分より強力なスタミナとエネルギーを持ち続けることができる。 |
| 金子ジムの金子繁治・名誉会長と金子健太郎会長。 |
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リング上のインタビューで良輔は、「ようやくチャンピオン・ベルトを手にしました。最初の頃は勝ったり負けたりでしたが、ずっと応援してくれたファンの方々に、この場を借りてお礼を申し上げます」と語った。 |
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| 記者会見では、「今日の内容には満足していない。自分では勝ちか引き分けだと思っていたが、もし負けの判定だったとしても、それはそれとして受け入れただろう」と語った。「だからこそ、勝ちは勝ち。本当に嬉しい」。そして、サバノビッチに大きな賛辞を送った。「当たり前だろうけど、パンチが的確で、ものすごく固い」と、まずその破壊力をたたえ、カウンターのうまさについて、「僕は、ワン・ツーからボディーなどのコンビネーションを一生懸命練習してきたのですが、ワンツーを入れたとたんにカウンターが来たり、ひょいと身をかわされたりする。要するに、つなぎをさせてもらえなかった。まだまだ未熟だと思いました。今後は、これまでにもまして、練習に励みます」。「同時に、自信がつきました。350戦も闘ったオリンピック選手に勝ったのですから。ほんとにいい闘いでした。感謝しています」 |
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(写真・文)山口明雄 |
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